DVをテーマにしたミステリー!佐野 広実「シャドウワーク」

江戸川乱歩賞作家、佐野広実さんの「シャドウワーク」。

DV(ドメスティック・バイオレンス)をテーマにした小説で、2025年にWOWOWで多部未華子さん主演で連続ドラマ化され、2026年9月には吉岡里帆さんと奈緒さんのW主演で映画化された原作本です。

DV夫から逃れるため江ノ島近くにある個人運営のシェルターに身を寄せた主人公の紀子と、同じ警察で働く夫からDVを受けた薫の二人の目線で語られていきます。

ちなみに「シャドウワーク」の意味とは、オーストリアの哲学者であるイヴァン・イリイチによって提唱された、社会や経済の基盤を支えるのに必要不可欠な労働なのに無報酬である労働を指す造語。

また、スピリチュアルや心理学における「シャドウワーク」では、スイスの心理学者カール・ユングが提唱した、自分自身の認めたくない部分や抑圧された無意識(シャドウ=影)に向き合い、それを受け入れて統合する作業をいいます。

まさにこの小説本にピッタリなタイトルです。

佐野 広実「シャドウワーク」



目次
・あらすじ
・簡単ネタバレ
・感想
 

「シャドウワーク」のあらすじ

夫・宮内清明の暴力から逃れる紀子と、同じ警察官の夫・晋一からの暴力を訴える薫の視点で語られます。

夫・宮内清明によるDV被害に苦しんでいた紀子は、三度目に入院した病院で出会った看護師・路子から、江ノ島近くにある個人のシェルターを紹介され身を寄せます。

志村昭江と路子が運営する一軒家の秘密のシェルターは、一度に住める定員が4名まで。
紀子が入った時には、奈美・洋子・雅代という女性たちが住んでいました。

シェルターでは家事を“持ち回り”でおこないつつ、昭江が経営するパン屋で労働。
建前上、シェルターはパン屋さんの寮となっており、お給料もちゃんと支給されていました。
しかも、弁護士の西山千栄子による離婚調停の支援もおこなわれるなど手厚い待遇です。

そして、夜はゲーム。
このゲームが、自分で判断し行動する力を養うものにもなっていました。

紀子は夫・清明から受けた暴力の記憶に苦しみながらも、シェルターでの穏やかな暮らしで本来の自分を取り戻していきます。

そんななか、紀子は女性が自立できた本当の理由を知り、残るか去るかの選択を迫られるのでした。



 

一方、警察官の夫・晋一からひどいDVを受け、離婚とDVの告訴をするも、逆に警察上層部から睨まれ孤立していた薫。
館山の海岸で発見された変死体(腐乱死体)の身元を調べていたところ、今井美佳子という女性で、近所の人の証言からDVを受けていたことを知ります。

美佳子の同居人でDVを加えていたであろう松原幸次を追及するものの、松原は心不全で死亡してしまいます。

それでも調査を進めると、美佳子は前夫からも激しいDVを受けており、一時保護施設に入所していたことが判明。
担当していた看護師の間宮路子と退院後も連絡を取っていたことから話を聞くために会います。
そこで江の島のシェルターを知り、紀子たちにも会って話を聞き、なんらかの事実を隠していると察します。

そうした調査の合間に離婚調停とDVの告訴に取り組んでいた薫ですが、世間体を第一に考える夫・晋一は頑なに認めず常に高圧的。

最初は弁護士による(家に戻るように)説得や告訴が受理できないようにしたりと妨害する程度でしたが、ついには第三者を使って襲撃するまでに。
追い詰められ心が折れそうになる薫ですが、離婚だけは必ずすると自分を奮い立たせます。

 

その頃、薫を監視していた晋一はシェルターをについて調べあげ、シェルターの秘密を知ります。

そしてシェルターを訪ねると、この家の秘密を知っていると脅迫。
黙っている代償として薫の殺害を要求します。

※ここから下はネタバレです。




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「シャドウワーク」の簡単ネタバレ

小説本の冒頭にある、二人の女性が部屋に押し入ってきた男性から逃げるために殺人を犯してしまうシーンは昭江と路子。
昭江と路子もDVの被害者で、シェルターで出会ったのをきっかけに、自分たちで江ノ島のシェルターを作ったのでした。

昭江たちは半年もしくは1年に1回の割合で、全国の仲間と連携しながらDV夫を自然死に見せかけて殺害。
自分たちの夫を殺してもらう代わりに、見知らぬ誰かの夫を殺害していました(持ち回り)。

つまり、シェルターの秘密とは、シェルターに暮らす女性が外部の協力者と協力し、暴力をふるっていた男性を自然死や事故死にみせかけて殺害(交換殺人)する事でした。

 

交換殺人の事を知った紀子の答えは「残る」。

紀子が初めて協力した交換殺人は、仲間たちと共に遠方の町へ赴き、その町で一人の男性を殺害すること。

その交換殺人によって、奈美の夫が別の仲間によって自然死(練炭自殺)に偽装されて亡くなっています。



 

一方、薫よりも先にシェルターの秘密(交換殺人)に気が付き薫を殺すように脅迫した晋一でしたが、逆に昭江たちの罠にはまります。

晋一の脅迫に折れた振りをした昭江は、薫を呼び寄せることと遺体の始末のみ承諾し、「どうせならご自分で殺したら」と提案。
晋一は自分の手で殺す方が溜飲が下がると納得します。

そして、昭江たちは薫を呼びよせると眠らせて晋一に引き渡します。

激しい暴行を受ける薫でしたが寸でのところで昭江たちに助けられ、逆に晋一が眠らされてしまいます。

昭江はこれまでの事をすべて明かし、薫に晋一をどうするか問います。

薫の答えは殺害。
昭江と路子が殺害した男性が埋められている花壇の隣にもう一つ穴を掘り、晋一を生き埋めにするのでした。

 

また、今井美佳子の殺害は松原幸次。
その松原幸次の死亡は昭江たちによるもの。

美佳子から相談を受けた路子は、江の島のシェルターには入れないけれども、他のエリアのシェルターになら紹介できるということで動いていたのですが、その前に美佳子は松原に殺されてしまいます。

昭江たちは事の真相を知るため松原を捕らえ、美佳子殺害について聞きだすと、いつもの手順で殺害したのでした。

 

その後、晋一は行方不明扱いになり、薫は警察を辞めてカウンセラーに。

紀子は2年ほどでシェルターを卒業すると、自分でもシェルターを作るべく動き出したのでした。



 

「シャドウワーク」の感想

この話に出てくる女性たちは、毎日が命すら奪われかねない状況。
法に守られず、どうすることもできない、まさに絶望しかない世界にいます。

行政が用意するシェルターは最大2週間までしか利用できないというのは、さすがお役所仕事だなと(汗)。
そんなに短いとは知らず、またそんな短期間にどうこうできるものなのかと疑問しかない。

「人を殺してはいけない」は当たり前のことですが、この小説の中の殺人は守ってくれるものがない中での「殺されないための殺人」。

いわば防衛ですね。
そもそもDVをする奴なんぞ、まともな思考ではないのですから、まともに取り合っても解決は難しいでしょう。

小説の中でも、たった一度だけ、自分の命を守るために境界線を越えてもいいのではないかという事を問うていました。

理不尽な暴力から逃れられないのであれば、これもまた仕方がないのかなぁと。
私が紀子もしくは薫の立場だったら、同じように「殺す」選択をしていたと思います。

だからこそ最後の結末で、主人公たちが捕まらなかったのにはホッとしました。

この世の中から理不尽な暴力が無くなることをもちろんですが、もう少し、虐げられている人たちを護る体制が作られることを願わずにいられません。

自分の子供たちがそんな目にあっているかもしれない、もしくは合うかもしれないと思うと恐怖しかなし。
誰にとっても他人事ではありませんから。



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