第23回「このミステリーがすごい!」大賞・文庫グランプリを受賞した現役医師、香坂鮪さんによる「睡眠」をテーマにしたミステリー小説「まどろみの殺意」。
森の中にある睡眠外来専門水巻ねむりのクリニックでおこなわれた睡眠導入剤の治験で、参加した患者の一人が不審死。
豪雨により外界と隔絶されてしまい、治験に参加する患者と医療者が閉じ込められ、さらなる事件が発生します。
「睡眠」に関する医療知識が満載の、クローズド・サークルサスペンスです。

「まどろみの殺意」のあらすじ
舞台は森の中にある睡眠外来専門クリニック「水巻ねむりのクリニック」。
新しい睡眠導入剤の治験が、2泊3日でおこなわれることになりました。
参加する患者さんは以下↓
全員が重度の不眠(インソムニア)などに悩まされている水巻ねむりのクリニックの患者さんです。
柳川卓司(やながわ たくじ)…タクシー会社社長。61歳。
朝倉慎之介(あさくら しんのすけ)…タクシー運転手。25歳。
篠栗須恵(ささぐり すえ)…タクシー会社の事務員。42歳。
多田博(ただ ひろし)…清掃会社勤務。58歳。実は元タクシー運転手。
黒木若葉(くろき わかば)…医療検体の回収者。40歳。
古賀誠(こが まこと)…医療機器メーカーの営業担当。32歳。
医療従事者は以下↓
水巻 杏(みずまき あん)…7年前から常に睡眠不足な院長。33歳。ゆきはとは幼馴染。
飯塚穂波(いいずか ほなみ)…看護師。36歳。
行橋ゆきは(ゆくはし うきは)…看護師。31歳。物語の語り手の看護師。
筑紫野あおい(ちくしの あおい)…治験コーディネーター。35歳。
治験のため、クリニックに集まる患者さん6名と医療従事者3名。
ところが、治験初日の豪雨の影響でクリニックと街を繋ぐ橋が冠水。
治験コーディネーターの筑紫野もクリニックに残ることに。
そして始まる治験初日の夜。
患者の一人が自室で窒息死しているのが発見されます。
殺人の可能性が疑われるものの、患者たちは全員治験用の機器によって行動が把握されており、動きがあればわかる状態。
完璧なアリバイが成立していました。
また、医療スタッフ側にも不審な動きはなし。
治験は中止となり警察に連絡を入れるも、すぐに救助隊が来れる状況ではありませんでした。
豪雨によって街のほうでも被害が出ており、クリニックは孤立状態。
いつ救助がくるのかもわからない緊迫した状況の中、さらに2人目の不審死(窒息死)が発生します。
※ここから下はネタバレ(犯人名含む)です。
「まどろみの殺意」の簡単ネタバレ
不審死を遂げた2名は、病死にみせかけた他殺。
犯人は看護師の飯塚と医療検体の回収者黒木。
多田が起こした交通事故で間接的に大切な人が死んでしまったことが動機でした。
19年前。
見通しのよい道路で、当時タクシー運転手だった多田が居眠り運転をおこし、飯塚の父が運転していた車とぶつかります。
事故の原因は多田のマイクロスリープ。
以前から自覚はあったのだけれども、クビや配置換えを恐れて報告をしないままでした。
それだけでなく、多田が勤務していたのが柳川のタクシー会社の労働環境はひどいもので、すくなからずそうした環境の原因も。
多田が運転する車にぶつかられた飯島の父が運ばれたのは、水巻の父親が勤務する病院でした。
飯島の父は動ける状態で本人も帰りたいと言ったことから、本来なら経過観察のために1日入院させるべきなのですが、もろもろの状態から帰宅を許可。
その後、飯島の父は容体が急変し死亡してしまいます。
普段から寝不足の状態が続いていた水巻の父は責任を感じて眠れなくなり、飯島の父が亡くなった2ヶ月後に自殺してしまいます。
また、多田が起こした事故の影響で周辺道路は大渋滞となり、ちょうどその時、誤飲による救急搬送されていた黒木の息子の治療が間に合わず。
病院について処置をするも、亡くなってしまいます。
田多が直接殺したわけではないのですが、この事故がきっかけで命を落としたことからも、飯島と黒木は許すことができず。
病院で見かけたのをきっかけに殺意を募らせたのでした。
そして最後、事件とは別で、隠していた秘密が暴かれます。
実は行橋ゆきはは偽物で妹のひまりであることが判明。
ひまりは、姉の代わりとなってクリニックに入りこんでいました。
その理由は、以前、水巻杏医師の処方ミスから患者さんが怪我をしてしまい、その場にいたゆきはは責任を感じてメンタルを崩してしまい自宅療養中だから。
杏が同じ過ちを繰り返さないため、またあの日のことをどう考えているのかを知るため、姉の名を語ってクリニックに入っていたのでした。
「まどろみの殺意」の感想
著者である香坂鮪さんは、循環器を専門とする特定機能病院に勤務する現役医師なだけあって、睡眠に関する専門的な医療知識や、医師としての冷静な視点がリアルに描かれていました。
日頃から医療現場のトラブルに慣れていることからも、凄惨な事態が起きても冷静かつスピーディーに救命処置をおこなう描写ができるのは、やはり作者さんがリアルに見ているからなんだなぁと。
睡眠について勉強になった一冊でした。
しかし、語り手の看護師である行橋ゆきは(本当はひまり)が謎を解くのかと思いきや、水巻医師だったとは。
それまで看護師さん(と読者にも)心配されるキャラだっただけに、ちょっとびっくり。
アリバイトリックは部屋の配置を利用したもので、作中巻頭にある「見取り図」が謎を解く大きな鍵になっていました。
本作品をイメージしやすく、読めるようにしただけではなかったんですね~。
また、事件の犯人が明かされた後に、別件での隠し事が明らかになるなど、もう睡眠をテーマにしているだけあって、登場人物全員に睡眠にまつわる悩みを持たせるとは。
先生の睡眠不足も解消されそうでよかったです。






