DNA鑑定を巡るミステリー!松下龍之介「一次元の挿し木」

宝島社文庫より出版されている松下龍之介さんの「一次元の挿し木」は、第23回(2025年)「このミステリーがすごい!」の文庫グランプリ受賞作品。

山田涼介さん主演でドラマ化もされて話題となっている作品です。

大学院で遺伝人類学を学ぶ主人公・七瀬悠(ななせ はるか)が、ヒマラヤ山中で発見された200年前の古人骨のDNA鑑定をおこなったところ、なんと4年前に失踪した義妹・紫陽(しはる)のDNAと完全一致。

関係者の不審な死、盗まれた人骨、新興宗教団体「樹木の会」となど、陰謀と大きな企みに巻き込まれいくヒューマンミステリーです。

殺人については犯人が殺し屋のようにでてきているので、「一次元の挿し木」では殺人犯を推理するのではなく、殺害理由と古人骨と紫陽の謎を楽しむ作品。

「なんで?」と読み進めていくワクワク感がありました。

松下龍之介「一次元の挿し木」



 

「一次元の挿し木」のあらすじ

主人公の七瀬悠は、遺伝子学を研究する大学院生。

悠の亡くなった母親は新興宗教団体「樹木の会」の熱心な信者で、大手製薬会社・日江製薬の社長である七瀬京一と再婚していました。
京一の連れ子であり義理の妹・紫陽は、4年前の豪雨で行方不明になってしまいますが、悠はある事から紫陽が生きていると信じています。

そんなある日、恩師の石見崎教授から、インドのループクンド湖で発掘された200年前の人骨の鑑定を頼まれます。
調べてみると、行方不明の義妹・紫陽のDNAと完全一致するという驚きの結果が。

別の検査で調べても骨は確かに200年前のもの。
再検査でも紫陽と完全一致。

この不可解な結果に石見崎教授を訪ねるのですが、石見崎教授は何者かに殺されていました。
同時に、研究所に置いていた人骨も盗まれてしまいます。

石見崎教授のお葬式にて教授の姪である石見崎唯から、石見崎教授の娘が行方不明になっていることを聞かされる悠。
互いの目的のために協力をし合わないかと持ち掛けられ、真相を調べるため動き始めます。

※ここから下はネタバレです。




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「一次元の挿し木」の簡単ネタバレ

簡単に要約すると、新興宗教団体「樹木の会」が次の教祖をつくるため、神秘性のあるループクンド湖にあったご遺体からクローンを作成。
それが紫陽。

新興宗教団体「樹木の会」の教祖のクローンも作られていて、それが牛尾。
牛尾は関係者をバッサバサと殺害していきます。

悠は唯(本名は真理で石見崎教授の娘)と共に調べはじめ、事の真相と義父の七瀬京一が必死に隠していた紫陽を見つけ出します。

京一から紫陽を託されるものの、再開した思い出の場所で牛尾に追い詰められます。
あわや危ないところで紫陽の助けが入り、なんとか牛尾を倒すのですが、肝心の紫陽は再び行方不明に。

なんと紫陽は新しい教祖になっていました。
悠は紫陽を探すことなく、平和な日常に戻っていきます。

 

「一次元の挿し木」を読んで(ネタバレ含む)

主人公の七瀬悠は精神系のカウンセリングや薬を服用していたことから、義理の妹の紫陽は悠が作り上げた架空の人物だったのかと、ミスリードさせるところも。

実は本当に実在していたとコロッと騙されました。

まさか、紫陽が200年前の骨から作られたクローンだったとは。
それがわかると、冒頭におけるループクンド湖の発掘作業での会話がまた違った感じで読めます。

 

牛尾の存在・目的が漫画のように感じられた

現実にありそうであるものの、ちょっと無理やり感が…。
特に犯人である牛尾の行動と正体が漫画チックに感じられました。

宗教団体「樹木の会」の教祖・真鍋宗次郎のクローンで、遺伝子の変異による異常な凶暴性ゆえに会の秘密をリークする者たちを殺害していた牛尾ですが、野放しにされているのはもちろん、たびたび目撃される姿やその存在理由・目的などが、どことなく漫画ちっくに感じられました。

牛尾の「ちゃぽん」の描写も。

何の音か分かった時はぞぞっとしました。
苛性ソーダがタンク内で揺れているの音だったんですね、そりゃ怖いわ。

七瀬京一の殺害シーンなんて最悪です。
ホラー漫画です。

 

終盤にご都合主義がちらほら…

ところどころにちょっと展開に無理があるなぁと感じるところが多々見られ、特に終盤は引っかかるところがいくつかあり。

唯が牛尾に居場所を確認するメールを送ってしまうのも警戒心なさすぎだし(これまで何をやっていた?)、なによりも牛尾が美術館に来るまでの時間が早い(瞬間移動なみじゃ!?)。

死にかけていた紫陽が、京一から投与された治療薬によって急激に回復し動けるようになったのも無理やりすぎませんかね。
めっちゃ弱っていた感じで、最後は寿命が尽きるのかと思いきや、教祖として生き続ける姿にはびっくりです。

そして、抗不安薬を手放せないほど紫陽に執着していた悠が、最後、紫陽が姿を消したことにたいしてびっくりするくらいにあっさり受け入れたのには肩透かしをくらったような。
葛藤がなさすぎのような?

 

また、難しいところは権力で片づけるなどのご都合主義もちらほら。

あちこちに信者がいるわけだから隠蔽なんてお手の物とはいえ、いくらなんでもやりすぎのような…。

日江製薬の悪事が暴かれず、それを暴こうとして亡くなった記者や刑事は闇に葬られ、主人公たち生き残り組は平和にすごす…モブのラストが闇しかない!



 

感想まとめ

主人公を中心に登場人物それぞれの目線でつづられ、視点変更が多く、登場人物の関係性などを把握するのにちょっと一苦労。

過去の描写も多かったですが、だからこそそれぞれの心情が伝わってきました。

全体的に映画のようにスケールが大きくてハラハラドキドキ。
ドラマ化されたのもわかるような。

ループクンド湖はインドのヒマラヤ山脈(ウッタラーカンド州)に実在する氷河湖で、湖のまわりや底から約800人分もの大量の人骨が見つかっていることから「スケルトン・レイク(骨の湖)」と呼ばれています。

それをモチーフに、ストーリーをうまく展開しているのはさすがです。

読み進めていくうちに「一次元の挿し木」というタイトルの意味も判明し、DNA(一次元の情報)から人間を複製・再生(挿し木)するということを表していたのかと。

(若干やりすぎ感もありましたが…)非常に凝っていて、二転三転のどんでん返しに引き込まれ、少しずつ過去が明かされていく感じに読み手が止まりませんでした。

これはこれで面白かったです。



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