単行本版とは異なる!背筋「文庫版 近畿地方のある場所について」

背筋さんの「文庫版 近畿地方のある場所について」は、ノンフィクションにみせたモキュメンタリースタイル(ドキュメンタリー風フィクション)のホラー小説。
タイトル通り、近畿地方のあるエリアに関する怪談話について追及していきます。

単行本と文庫本とあり、微妙にストーリーが異なります。
瀬野役に菅野美穂さん、小沢役に赤楚衛二で映画化されていますが、こちらは単行本版を原作とします。

文庫版では瀬野と副編集長の小澤でストーリーが進みます。

いずれもなかなか怖い話ばかり。
さらに巻末にあるとじ込み付録には、本作に出ていたポスターや絵、写真などが紹介されておりなかなかの迫力があります。

背筋「文庫版 近畿地方のある場所について」



目次
・あらすじ
・簡単ネタバレ
・感想
 

「文庫版 近畿地方のある場所について」のあらすじ

本作は、主人公である副編集長の小澤雄也とフリーランスの瀬野千尋とのやり取りに、取材資料・雑誌Qの掲載記事を織り交ぜながら進みます。

※以下、怪談話を抜粋・要約(一部なし)

 

雑誌Qの掲載記事

※先頭の数字は本作に出てきた順番。
年代別に並べ変えています。

2)1989年3月「実録!奈良県行方不明少女に新事実か?」
学校帰りに忽然と行方不明になった8歳のKちゃんが、近畿地方のとある山の近くで多数の目撃情報。
保護しようとしたトラック運転手は「Kはね、お嫁さんになったの」と言って山の中に走って行ってしまった。

4)1993年8月「短編:まっしろさん」
近畿地方のとある山の片側を削り建てられた新築マンション内で、「まっしろさん」という遊びが密かに流行。
子供たちの様子がおかしくなる。

9)1998年5月「新種UMA ホワイトマンを発見!」
家族三人で近畿地方のあるダムが近い山のふもとのキャンプ場を訪れたところ、どこからか声が聞こえたり、奥さんが不調を訴えおびえるなどの様子から予定よりも早めに切り上げて帰ることに。
帰る前に展望台に行くと、山の方から「おいでおいで」とする大きな白い手がみえ、奥さんと娘ちゃんが山の方に向かってふらふらと歩いていこうとしていました。
旦那さんは二人を無理やり車に乗せてその場を離れました。

12)2000年8月「偏境でみた異端、カルト教団潜入レポート」
周囲にはダムしかない山のふもとにある新興宗教「スピリチュアルスペース」に潜入取材をしたところ、教祖ではなくしめ縄が巻かれた石を崇拝していることを突き止めます。
石の周りで「女」と書かれた何かの絵を描いており、意味不明な言葉を発している様子に危機感を覚え、なんとか脱出したものの体調を崩してしまいます。
その後、別のライターに確認してもらったら、施設は無人となり石もなくなっていたそうです。

3)2006年4月「林間学校集団ヒステリー事件の真相」
保養所の山側のベランダから「おいでー。かきがあるよー」が聞こえ、それに答えると大きな素足の足が見えました。
不審者が出たとして急遽予定を切り上げて帰宅しましたが、その後、答えた女の子の様子がおかしくなり自殺。

8)2008年7月「謎のシール!その正体に迫る」
10センチ四方の白いシールに、簡略化された鳥居と人のようなイラスト、そして四隅に「女」の文字が書かれた謎のシールが都内各所に出没。
また、チェーンメールでもこれと似た画像が出回っており、それには「女」ではなく「了」。

5)2009年8月「読者投稿欄」
口が裂けるぐらいの笑顔の女性が、2階まで届くジャンプで家の中をのぞいてきます。

10)2010年5月「短編:心霊写真」
近畿地方にあるダムの内部を取材した際、管理室の奥に置かれたロッカーにフランス人形が置かれているのを見つけました。
職員の方に聞くも、「ここに置いておかないといけないもので、その理由はわかりません」との事。
写真(画像番号53番)を撮るも真っ暗で、それ以後、53番の写真はすべて黒く映るようになりました。
ある時、不思議に思った発注元の人が53番の写真を画像編集ソフトで最大値まで明るさ補正したところ、そこには大きく開けた口の中が写っていました。

7)2014年3月「短編:待っている」
幽霊マンション5号棟に移り住んだ高齢の母を息子Aさんが訪ねた際、飛び降り自殺が発生。
その惨状にも怖がらず「待っているの」と言い続ける母に恐怖したAさんは、すぐに母を連れて引っ越しました。
ご近所さんから話を聞くと、5号棟は自殺の名所で有名で、Aさんの母が入居後も2名が飛び降りていました。

6)2015年2月「短編:賃貸物件」
インターネットで賃貸物件情報を見ていたら、荒れた和室の中に赤いコートのようなものを着た女性が直立不動で立っている写真を発見。
しばらくすると、今度は女性が両手を挙げている写真が。
会社でコピーした書類にも印刷したものが出てきて、「見つけてくださってありがとうございます」とのメッセージ入り。
怖くなって友人に見せたら「これ、あんたの実家じゃないと」と言われ、よく見たら、実家で使っていた自分の部屋でした。

1)2017年7月「短編:おかしな書き込み」
アダルト動画に書き込みされてたいたコメント「うちへきませんか。かきもありますよ」に、男性がからかい半分で返信。
近畿地方にある神社の住所と共に「こしいれせよ」と返ってきた。

11)2018年7月「短編:浮気」
サークルの飲み会で、友人の一人が小学生の頃に流行っていた「ましろさま」と呼ばれる儀式を紹介。
立った状態で両手を上げ、「ましろさま、ましろさま、おいでください」と言って3回ジャンプするとの事。
言われたとおりにやったAさんの彼氏の様子がその後おかしくなり、ある日、Aさんの髪をバッサリ切るとぬいぐるみに巻き付けて「これで大丈夫だから」と言うと外に。
それ以後、行方不明。



 

ネット収集情報

・バイク好きの中年男性のブログ記事がすべて消え、どこかのダムと、大量の人形が詰め込まれている祠が映されていた(2010年)。

・お札屋敷と呼ばれる廃墟に一人で潜入した動画配信者が、和室の畳下からしめ縄が巻かれた大きな石を発見し、「了」と書かれた絵の写真を見せて消息不明(2011年)。
後日、お札屋敷に探しにいくも石はなし。

・「山に住む偉い方に会いに行く」と言っていた女性がダムで遺体となって発見される(2016年)。

・とあるトンネルに突撃した動画配信者が誰かに追いかけられ、その直後おかしくなり「山に行きませんか?」と言って終わる(2020年)。

 

インタビューのテープ起こし

・元月刊Q編集部員香川の取材メモ

情報提供者は当時大学生の男性Aさん。
卒業論文の一環として、ネットでみつけた「呪いの映像」を使って数名の体験者による実験をおこないました。

それがきっかけで、Aさんの部屋のベランダで赤系のコートを着た女性が両手を挙げてジャンプしている姿が目撃され、さらに階下の人から「天井からドンドン音がする」と苦情を言われるように。

Aさんが使った「呪いの映像」は有名なもので、近畿地方にある山のところに建てられた幽霊マンション5号棟でカメラに向かってジャンプする女性の姿が映りこんでいる映像でした。

・Aさんの追加取材

香川から紹介されたお寺で「生き物を飼うといい」と言われその通りにしたところ、男の子の姿が見えるように。
とはいえ遠くから見ているだけで実害はなく、今でも元気に暮らすことができている状態。

 

小澤雄也と瀬野千尋とのやり取り

・打合せ1回目

別冊Qが数年ぶりに刊行されることになり、その記事と編集を瀬野に依頼。
瀬野はこの仕事を最後にするとして、近畿地方のある「山」についての特集案を提案します。

南北に連なっている山を中心に、西側にトンネル・ダム・廃墟(元保養所)。
東側には幽霊マンション(5号棟)、お化け屋敷と呼ばれている廃墟。

山を中心に心霊スポットが点在しているとの指摘から、とある山を取り巻く怪異として企画を進めることに。

 

・打合せ2回目

取材資料からの考察は以下。
①「まっしろさん」という怪しげな遊びが流行ったマンションが、数年後に幽霊マンション(5号棟)になっている
②アダルト動画に書き込まれていた住所と、バイクブログを書いていた男性が乗せた神社が同一神社
③神社とマンションを直線で結ぶと、5号棟が一番近く山に面していることから、神社に向かって飛び降りている

山の東側ではマンションから、西側ではダムからの飛び降り自殺が多発しているとまとめ、さらに怪異を「山に誘うモノ」「赤い女」「呪いのシール」に分類します。

 

・打合せ3回目

取材資料から「山に誘うモノ」の考察は以下↓
①女性を嫁にするため山に誘い込み、必要なのは魂だけで、不要な肉体は投げ捨ててる(飛び降り自殺)。
②ぬいぐるみに髪を巻いたり、祠やダムに置かれた人形などから、身代わりを差し出すことで助かる。

「赤い女」の考察は以下↓
①お札屋敷に住んでいたのは赤い女と男の子
②赤い女はスピリチュアルなものに傾倒しており、男の子に関する何かを広めようとしていた
③「ましろさま」の儀式が赤い女を彷彿とさせる
④お札屋敷は「了」と書かれたシールと関係している

※ここから下はネタバレ(犯人名含む)です。



 

「文庫版 近畿地方のある場所について」の簡単ネタバレ

本作は、大きく分けて2つの事件が怪異に発展しています。

①まさると呼ばれる男性にまつわる怪異
②新興宗教にはまってしまった瀬戸の母にまつわる怪異

 

事の始まりは、近畿地方のある山のふもとにあった村。

まだダムができる前、両親を亡くしたまさるという男性が寂しさからノイローゼ状態になり、家に閉じこもって一日中、人形に話しかけるように。
心配した村人たちが年頃の女性と引き合わせるのですが、なかなかうまくいきませんでした。

そんな中、とある風習を「柿があるか聞いたら嫁がもらえるぞ」とふざけて言った村人の言葉から、村中の女性に「柿があるからおいで」と声をかけるように。
気味悪がられて、誰も近寄らなくなりました。

 

ある晩、まさるの家の近所の女性が頭を割られて死亡し、まさるが疑われ滅多打ちに。
まさるは石に自分で頭を打ち付けてしんでしまいます。

まさるの遺体は村の墓地ではなく山の林に埋められ、石を墓標代わりに置かれました。
その後、村ではひどい状態で亡くなる女性が相次ぐように。

まさるの祟りと恐れらた村人は、山の上の神社の境内に祠を建てて、石を置いてしめ縄を巻き「まさるさま」としてお祀りしました。
そして、柿や人形をお供えするように。

創建の由来は都合のいいように変えられ、猿の神様「ましらさま」として伝えられるようになりました。

 

そして近年になり、新興宗教「スピリチュアルスペース」が石を持ちだし、信仰を広めるため各地にお札(「女」と書かれたシール)を頒布。

信仰の力からまさる様の力が強まり、山に女性を呼ぶようになります。

 

ところが、この石をスピリチュアルスペースの信者だった瀬戸の母が持ち出してしまいます。
理由は、息子の了(あきら)を復活させるため。

もともと父、母、了、そして千尋は4人で暮らしていましたが、父が病気になり、その治療ができる大病院の近くに引っ越すことに。
なぜか、千尋だけは祖母宅に預けられ、一軒家には父・母・了で住むことになりました。

そして1年もたたずに父が亡くなり、母が新興宗教「スピリチュアルスペース」にのめりこむようになり、その姿を嫌悪した千尋はほとんど会わずじまいに。

千尋が大学生の頃に弟の了が自殺。
母はスピリチュアルスペースから石を持ち出し、「女」ではなく「了」と書いたお札(シール)を家中に貼り、ご近所にも配るようになります。

 

それからしばらくして母が自殺。
石は何者かに持ち去られてしまいます。

千尋は、オカルト雑誌Qがスピリチュアルスペースに詳しいことから話を聞こうと思い電話をかけるのですが、母親が信じていたものを調べるため、偶然応募していたライターとして働くことに。

調べていく中で、母の話が「赤い女」の怪談になっていることに気が付くのでした。



 

「文庫版 近畿地方のある場所について」の感想

ネットと雑誌の掲載情報がうまくまとめられており、合間に主人公である副編集長・小澤雄也とフリーランス・瀬野千尋の打ち合わせで情報が整理できて読みやすい一冊でした。

読み進めていくうちに繋がっていくので、夢中になって読んでしまいました。

 

また、近畿地方のある場所にまつわる不気味な話や証言が次から次へとでてきて、前半分はとにかく怖い。

夢にまで出てきそうなくらいのリアリティ。

ストーリーや人間関係ががきちんと表現されており、ただのホラーで終わらせていない。

読み終わった後にもう一度読み返すと、なるほどねぇ~と初回とは違った読み方ができておもしろかったです。

 

ちなみに、怖い話が苦手な方は、巻末の写真は見ない方がいいかもしれません。
個人的には、ある1枚の写真がかなり怖くて…読んでなければ全然怖くないんですけど(まだ読んでいない家族に見せたらまったく怖がらず)。

映画化だけでなく漫画化もされていますが、活字でこれだけ怖かったのですから、映像や絵で見るのにはちょっと…。
小説だけにしておこうと思います。



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