知念実希人さんの「ヨモツイクサ」は、バイオホラー&医療ミステリー&SF小説。
アイヌの人々から「黄泉の森」と恐れられてきた北海道旭川の禁域を舞台に、7年前に家族が神隠しに遭った外科医・佐原茜が、手掛かりを求めて禁域に入り、そこで驚愕の事実を知るというストーリー。
熊という身近な恐怖から、生物学・医学的な恐怖、そしてエイリアン的な恐怖とスケールがどんどん拡大!
現役医師による医療知識と生物学が巧みに取り入れられた、強い説得力があるホラー小説。
実際に起こってもおかしくないリアリティがあります。

「ヨモツイクサ」のあらすじ
主な登場人物は以下↓
佐原 茜(さはら あかね)…行方不明の家族を探す女性外科医
鍛冶 誠司(かじ せいじ)…12年前に妻を巨大ヒグマ「アサヒ」に殺された熟練猟師
小此木 劉生(おこのぎ りゅうせい)…茜の姉の元婚約者で、旭川東署の刑事
四之宮 学(しのみや まなぶ)…茜の同期の法医学専門家
姫野 由佳(ひめの ゆか)…茜の後輩医師
ハル…言い伝えに残る生贄の少女
小室 紗枝(こむろ さえ)…黄泉の森で錯乱状態で保護された少女
アサヒ…体重1トン級とも言われる巨大人喰いヒグマ
イザナミ…ヨモツイクサの女王であり、新たな生命を生み出し続ける中心的存在
イメルヨミグモ…暗闇に蒼く発光する新種のクモ
ヨモツイクサ…人間を食べる未知の怪物
アミタンネ…女王を守るため、外敵を徹底的に排除する怪物
北海道の旭川にある「黄泉の森」は、古くから立ち入りが禁じられている伝承の地。
地元では、ヨモツイクサというあの世の鬼を使って動物を捕まえ食べている悪い神様が住んでいるから決して入ってはいけないと伝えられている地です。
そんな「黄泉の森」を大手ホテル会社が買収し、リゾート開発が進められることに。
ところが現場簿作業員たちが襲撃を受け、おびただしい血痕と無残な痕跡を残して忽然と姿を消してしまいます。
捜索隊として派遣されたのが、凄腕の猟師として知られる鍛冶誠司や姉の婚約者であり刑事の小此木劉生ら数名。
禁忌の森「黄泉の森」を捜索すると、土饅頭にされている作業員たちの遺体を発見。
四ノ宮がおこなった司法解剖で、遺体から青く発光する新種のクモ「イメルヨミグモ」が発見されます。
現場の状況や残された痕跡から通常のヒグマの仕業とは考えにくいものの、警察は巨大ヒグマ「アサヒ」の仕業と断定。
熊狩りに精通した猟師を募り、駆除をおこなうことを決めます。
道央大病院に勤める外科医である佐原茜は、今回の惨劇が神隠し事件と無関係ではないと直感。
7年前、「黄泉の森」のすぐそばにある実家で、家族が忽然と姿を消した神隠し事件の解き明かす手掛かりを探すため森の中に入る決心をします。
次の討伐隊の編成を待たずに「黄泉の森」に入った鍛冶と茜は、そこで無残に食い殺された巨大人食いヒグマ「アサヒ」を発見。
さらに、内臓にはイメルヨミグモの姿が。
ヒグマ以上の「何か」が確実に存在していることに恐怖を覚える茜たちの前に、錯乱状態の少女・紗枝が現れます。
暴れる紗枝を保護し病院に連れていくと、紗枝の腹部から見たこともない異形の腫瘍を発見。
それは「ヨモツイクサの卵」でした。
茜は卵から孵化したヨモツイクサに襲われますがなんとか退治。
ところが、卵をとられたことに気が付いた紗枝が、茜が住むマンション12階によじ登り襲撃。
激しいやり取りの末、紗枝は階下に落下して死亡してしまいます。
紗枝の遺体は四ノ宮によって調べられ、それによって驚くべき事がわかります。
・イメルヨミグモは他の生物の遺伝子を水平伝播させることができ、自分の進化ではなくヨモツイクサにの進化に活用することで存続する媒介者(ベクター)。
・ヨモツイクサに生殖機能はないので、イメルヨミグモが動物の体内に卵を植え付けることで繁殖。
しかも、イメルヨミグモは動物に卵を植えていたのに、ここ数年前から生きた人間に卵を植え付け始めていることも判明。
それすなわち、イメルヨミグモの他に人間の媒介者(ベクター)がいることになり、紗枝も媒介者(ベクター)に卵を植え付けられた一人であるということ。
さらに四ノ宮が成熟奇形種の手術を受けた女性を調べていると、ある共通点を発見。
人間の媒介者(ベクター)が誰なのか判明したところで殺害されてしまいます。
その数日後、アサヒを殺した熊の討伐隊として、茜・鍛冶・小此木を含む討伐隊が再び「黄泉の森」に。
そこにヨモツイクサの成虫が現れ、討伐隊のメンバーを次々と殺害。
ところが茜には攻撃せず、それどころかヨモツイクサの内部にある姉の姿を見せます。
鍛冶の攻撃を受けたヨモツイクサは森の奥へと向かい、生き残った茜・鍛冶・小此木が追いかけると、そこにはかつてあったとされる村の跡が。
伝承のハルが連れてこられた村でした。
さらに、白骨化した茜の家族を発見します。
※ここから下はネタバレ(犯人名含む)です。
「ヨモツイクサ」の簡単ネタバレ
禁域「黄泉の森」に潜むヨモツイクサとは、他の生物の遺伝子を取り込み進化している生物。
そして女王・イザナミを守る兵隊。
青く発光する姿を持つイメルヨミグモがイザナミの卵を生き物に付け、そこから生まれたのがヨモツイクサです。
が、進化の違いとイザナミは複数いる(この時はハルと茜)ことから、茜(イザナミ)の卵によって生まれたのをヨモツイクサ、ハル(イザナミ)の卵によって生まれたのをアミタンネと呼んでいます。
まとめると以下↓
イザナミ…女王バチのような存在。ハルと茜がこれ。
イメルヨミグモ…生き物に寄生して卵子をヨモツイクサ(アミタンネ)の卵に変える。遺伝子の書き換えが可能。
アミタンネ…ヨモツイクサの旧バージョンみたいなもの。ハルの子供。
ヨモツイクサ…伝承に伝わるあの世の鬼。実はアンミタンネよりも進化した次世代版。茜の子供。
ハルは伝承通りですが、茜は幼少期に「黄泉の森」で遭難した時にハル(イザナミ)に会い、イメルヨミグモによって体内に卵を植え付けられました。
長年にわたりこの卵が彼女を生態系の一部として進化させ、やがて卵を産むイザナミに。
茜は排卵期になると体調不良から実家を訪れていましたが、実は産卵のためでした(本人は無自覚)。
つまり、人間の体内に卵を植え付けてヨモツイクサを繁殖させている媒介者(ベクター)は茜。
茜は手術中に、本人の自覚がないまま、こっそりと卵を植え付けていたのでした。
怪我で手術が必要になった姉に卵を入れたのも茜で、家族は餌として射殺され廃村に連れていかれました。
小室紗枝は、茜が助手として手術に立ち会っています。
森の中にいたヨモツイクサが茜を襲わなかったのは、茜がベクターだから。
ヨモツイクサの中に見た姉の姿は、姉ではなく自分でした。
そして、伝承では生贄になったハルがイザナミに取って代わっています。
そして、そのハル(イザナミ)に取って代わるのが茜です。
四ノ宮の殺害も茜で、真実に気が付きそうだったために殺害(もちろん無自覚)。
実家の牛舎に遺体を持っていき、イメルヨミグモの餌にしています。
ちなみに、茜の実家はイザナミがいる「黄泉の国」のすぐ近くでした。
最後、ハルと茜が戦い、茜が勝利。
茜は次の世代を育てるため、イメルヨミグモを姫野に取りつかせるのでした。
「ヨモツイクサ」の感想
数種類の生物(化物)が出て、それぞれの働きが異なるので、ちょっと理解するのが大変でした。
最初にズバッと説明されているのならまだしも、少しずつ解明されていき、こうだと思っていたら実はこうだった…と別説がでると「???」となってしまい、頭がこんがらがりました。
モンスターが暴れ回るだけの単純なホラー化と思いきや、緻密で容赦のないバイオホラー・ミステリーでした。
熊との戦い
↓
謎の寄生生命体によるホラーSF
↓
エイリアンバトル
…と、一冊でこんだけ展開し、とっちらかることなく上手くまとまっているのがすごい。
構成や伏線も見事。
とはいえ、まさか熊から未知の生物(エイリアン)にまで発展するなんて思わなかったから、読んでいて「えっ?えっ?えっ?」って感じでした。
何が一番キツイって、ヨモツイクサに生きたまま食べられるシーン。
スプラッター系はダメなので、事前に知っていた絶対に読まなかったでしょう(泣)。
医療知識と生物学が満載のさすが現役医師といったリアリティがあり、グロい&スプラッターでまさに「バイオハザード」と「ハンニバル」を凶悪化した感じでした。
しかも、四之宮が残した留守番電話の音声「君だよ」というたった一言のために、1ページを使うとは。
ぺらりとめくった時の衝撃が思った以上でびっくりした。
夢中になって読んでいたからなんですかねぇ。
心臓が跳ね上がりましたわ。
最後の最後まで仕掛けが施されていて、すべてがきれいに繋がるのは、いつもながらすごい手腕だなぁと思いました。
伝承のなかでイザナミを倒して新しいイザナミになったハルと同じく、今度は茜がイザナミに。
後輩の姫野ちゃんが次の女王にして…って姫野ちゃんの憧れはそういうものじゃないんですけどね。
しかもアメリカで雅俗を増やすなんて、えらい迷惑な結末でした。






