wowow連続ドラマ化の不思議な世界観!恩田陸「ユージニア」

恩田陸さんの「ユージニア」は、2005年に出版された第59回日本推理作家協会賞受賞作品。

さらに、2020年に「ニューヨーク・タイムズ今年の100冊」に選出、2022年には「ドイツ犯罪小説賞・国際部門」で1位を獲得するなど、国内外で評価の高いミステリー小説です。

2026年にはwowowで連続ドラマ化もされました。

本作は、北陸にあるとある町の名家で、17人が死亡する毒殺事件が発生。
事件に関係する人々がインタビューに答える形で事件を語り真相を探るストーリー。

真相や犯人が誰なのかはっきりと断定されておらず、関係者の証言や背景から読む人によって解釈が異なる部分もありそうな一冊です。

恩田陸「ユージニア」



目次
・あらすじ
・簡単ネタバレ
・感想
 

「ユージニア」のあらすじ

代々医者家系の青澤家当主の還暦祝いと祖母の米寿のお祝いの最中で毒殺事件が発生。

一族だけでなく、たまたま来ていた出入りの業者、居合わせてご相伴になった近所の大人と子供が、乾杯で出された飲み物を飲んで死亡します。

17名が亡くなりますが、20年近く青澤家に仕えた家政婦(小説「忘れられた祝祭」ではキミさん)は飲んだ量が少なかったことから命を取り留め、孫娘の青澤緋紗子が飲んでいなかったことから助かりました。

発見者は雑賀家の子供たち。

ジュースをもらっていた順一が、飲む前に兄の誠一と妹の満喜子を呼びに言った事で難を逃れ、戻ってきて惨事を目の当たりにし、警察に知らせたことで事が発覚します。

毒物は、黒い野球帽をかぶった黄色の雨合羽を着た男が運んできたお酒とジュースに仕込まれていました。

また、テーブルには、誰に充てたかわからない奇妙な手紙。

誰が何のために、誰に向けて手紙を置いていったのか、書かれていた「ユージニア」の意味や誰のことなのか謎のままに。

 

その数か月後、黒い野球帽をかぶった黄色の雨合羽を着た男が自殺したことで事件は急展開。

室内からは遺書と事件で使われた毒がみつかり、男の指紋が現場で見つかった指紋と一致。

男性は精神科への通院歴があり、遺書には青澤一家を殺害しなければならないという神のお告げを受けたと書かれていました。

とはいえ不明点も多く、お酒とジュースを届けたのは男性で間違いないものの、毒は別の人物が入れたのではないかと推測する人も少なくないのでした。

 

登場人物は以下↓

青澤緋紗子…毒殺事件の青澤家唯一の生存者。目が見えない美しく謎めいた存在。結婚後はアメリカで暮らしている。
青澤望…長男。
青澤佑…末っ子。
緋紗子の母…クリスチャン。

雑賀満喜子…兄弟と一緒に毒殺事件の第1発見者。後に、事件の経緯を小説「忘れられた祝祭」を出版。
雑賀誠一…雑賀家の長男。毒殺事件の第1発見者。
雑賀順二…雑賀家の次男。毒殺事件の第1発見者。
雑賀キミ…20年近く青澤家に仕えた家政婦。毒を少し飲むもかろうじて助かる。

青年…体が悪く、孤独で精神的にも不安定。毒殺事件の犯人として自殺した。

照さん…毒殺事件の担当刑事。緋紗子を一目見て犯人と感じる。
婦警さん…事件後、緋紗子の事情聴取を照さんと共におこなう。

満喜子の後輩男性…毒殺事件の聞き取り調査を手伝う。
生き残った家政婦…「忘れられた祝祭」ではキミさん。

インタビュアー…ある人物の知り合い。



 

以下、各章で各関係者が語り手になり事件について語る証言形式。
ですが、本「忘れられた祝祭」も含まれるなど、すべてが証言形式ではありませんでした。

しかも、順番はバラバラ。
ここでは、時系列にそって並べています(とはいえど、大人になってからは不明な部分もあるので、そこは章の順番通りに)。

◆事件前

・第9章
緋紗子と青年の会話。
タイトル「ユージニア」につながる会話とにぎやかな家族の事、一人の寂しいおじいさんの事が語られています。

・第7章
文房具屋の若旦那が、近所に住んでいる青年に興味を持つ話。
馴染みの蕎麦屋の入り口に飾ってある掛け軸を食い入るように見つめる青年を見かけるようになり、法要で訪れたお寺でご住職から、家族を亡くしたことで気落ちし病気がちであること、仏の絵に興味がある事を聞きます。

そして事件当日には、青年が黄色い雨合羽を着こんで出かけている姿を見かけ、事件後にはずぶぬれの姿で掛け軸に「やっと返事ができました。これが私の返事なのです」と繰り返していたところを目撃。

 

◆事件当日

・第3章
中学生の雑賀満喜子(作中ではマキ)目線で、青澤家(作中では相澤家)でお祝いがあった日が描かれています。
お使いの途中である緋紗子(作中では久代)から「今日は蝙蝠が来るような気がするから、家には近づかないで」と約束させられるものの、ついつい足が向いてしまい青澤家に。
緋紗子が帰ってきたのと同時に青澤家を去ると雨が降り出し、黒い野球帽に黄色の雨合羽を着た男性から青澤家への道を尋ねられます。

・第5章
毒殺事件の担当刑事、刑事になった経緯、そして青澤家毒殺事件の現場に臨場したときの様子が描かれています。

・プロローグ
緋紗子と婦人警官の会話。
毒殺事件の事情聴取で、まだ混乱していたことからも、部屋の事、子供の頃に見たことだけを話していた。
青い部屋と白い花が咲いているさるすべりの木について話します。



 

◆事件から十数年後

・第1章
語り手は、結婚し小学校に上がったばかりの女の子を育てる主婦になった雑賀満喜子。
毒殺事件をまとめた本「忘れられた祝祭」を出版した経過と、事件当時の様子について語ります。

・第2章
語り手は、毒殺事件の聞き取り調査を手伝っていた時のことについて語る、満喜子の後輩男性。
「忘れられた祝祭」の本筋とは関係はない部分だけれども、証言と異なる部分があると言います。

・第4章
語り手は、青澤家に長年勤めていた家政婦(「忘れられた祝祭」ではキミさん)の娘。
毒を少量しか口にしなかったので助かった母親が、犯人が捕まるまで疑われひどい扱いを受けた事や、晩年の母親の様子を語ります。

・第6章
語り手は、子供が独立しのんびりと夫婦で過ごす雑賀誠一。
事件の第一発見者になった時の事、事件後に両親が離婚した事、そして妹(満喜子)が好奇心から毒草をシチューに入れた事などを話します。

・第8章
語り手は、煙草屋の息子。
犯人とされる青年が住んでいたアパートが近く、「兄さん」といってなついていた。
兄さんは「とてもきれいな花の声が聞こえるんだ」とたびたび言っており、事件の前々日には、「声にもらった」という住所が書かれたメモを大事そうに手にしていたと話します。

・第10章
語り手は、「忘れられた祝祭」出版社の担当者。
著者である雑賀満喜子と「忘れられた祝祭」が出版された経緯、そして著者と連絡を取りたいという女性から電話があったこと、独り住まいの老人宅の家と一緒に取材ノートにあった古本屋も焼けた事を語ります。

・第11章
語り手は、定年退職した元刑事。
毒殺事件の犯人は緋紗子と直感し、その犯罪を立証するべく必死に捜査したことを話します。
また、「忘れられた祝祭」を読んでことで、自分は重大な見落としをしていたことに気が付いたと言います。

・第14章
語り手は雑賀満喜子。
単身赴任中の夫のところから、懐かしい昔住んでいた町を歩いていたところ毒殺事件の婦人警官と会い、当時、緋紗子と交わした会話について聞きます。
その会話と緋紗子から聞いた幼い頃の話から、緋紗子が「さるすべりの花」と言っていた花の正体に気が付きます。

・第12章
雑賀満喜子(結婚して吉水性)が公園で熱中症により死亡した記事と質問への回答、青澤邸取壊し中止への嘆願書、そして雑賀順二がもらったジュースに毒が入っているのに気が付いたことを告白する手紙が資料のように提示されています。

・第13章
フリーライターのインタビュアーが、緋紗子と会います。
そして、緋紗子が事件について語ります。

※ここから下はネタバレ(犯人名含む)です。



 

「ユージニア」の簡単ネタバレ

タイトル「ユージニア」の意味とは、青澤緋紗子が探していた静かな理想郷の名前。
毒殺事件の犯人とされる青年との二人だけの国です。

そしてフリーライターのインタビュアーは、雑賀順二の学生時代の友人。

順二からの手紙(第12章)がきっかけで今回の青澤家毒殺事件を調べ始め、事件の真相に近づいていきます。

 

とはいえ、事件の真相や犯人が誰だったのかははっきりと明記されていません。

ただ、実行犯は家族と妹を亡くした青年で、黒幕?は目が見えない青澤緋紗子と推測されます。

第5章では、毒殺事件の担当刑事が事情聴取のために緋紗子の病室を訪れた時、一目みるなり「こいつが犯人だ」と直感しています。

事件後、青年は犯人として自殺してしまいますが、緋紗子は大学院で知り合ったドイツ人と結婚し、転任先のアメリカで目の治療を受けて見えるように。
青澤邸は維持が困難なため取り壊されることになります。

また、緋紗子の母が犯人になりえるような描写も。

今回の毒殺事件の本当の黒幕のような感じもしますが、緋紗子の思想に大きく影響を与えた人物といったところかなと(自分は)推測しています。



 

緋紗子の母はクリスチャンで、養護施設も兼ねていた教会に足繁く通い、そこにいる子供たちの世話をしていました。

緋紗子も一緒に来ていましたが、もっぱら海辺の遊歩道の途中にある公園の椅子に座って静かに過ごすのが大半。

青年と緋紗子の接点はこの公園の椅子で、元刑事が生き残った家政婦(キミさん)から聞いた話からもわかります(第11章)。

その椅子は背もたれが高く上部にステンドグラスがはめてあるS字型の変わったデザインをしており、顔を見ないで話すことができます。
緋紗子はその場所をとても気に入っていたらしく、一人で過ごすことも。

そこで青年と背もたれ越しに会話をするようになり、青年は「花の声」と呼ぶように。

次第に親しくなり、そこで緋紗子が心の中でずっと願っていたことを話したことから青年が犯行を実行します。

第13章で緋紗子は、自分はそういうつもりではなかったというニュアンスで語りますが、青年の行動だけでなく、乾杯の時にかかってきた電話、身寄りのない老人宅の出火も、教会の子供たちを利用しての行動だったことが明らかになります。

 

まず、青年が「花の声からもらった」と大切に持っていたメモ書きは、公園で緋紗子から渡されたもの。

第8章の煙草屋の息子の話では、青年が持っていたメモには二つの住所が書かれており、それは毒入りのお酒とジュースの発注元とされている山形の医院の住所と青澤家の住所。
また、煙草屋の息子は青年が自殺したことについて、花の声に「じゃあ死んじゃいななさいよ」と言われたからと推測しています。

事件後のメモの行方は、第11章の定年退職した刑事の言葉からわかります。
きれい好きだった青年は声の主からもらった手紙を捨てることはせず、大事に本に挟んで持っており、身辺整理で古本屋に持って行ってしまった。

さらに、その古本屋は一人暮らしの老人の家でおこった火事に巻き込まれ燃えてしまいましたが、これも緋紗子の根回しによるもの。
証拠隠滅が目的だったのではと推測しています。

この火事は、緋紗子が教会の子供たちに、寂しそうにしている老人と花火を楽しんでおいでと話した事がきっかけ。
第9章では、緋紗子が寂しいおじいさんについて話をしています。

 

生き残った家政婦の娘さんからの証言にある、乾杯直後の不審な電話も教会の子供たち。

ミキさんが、お祝いの乾杯を口に付けた時に電話が鳴ったので、急いで受話器を取ると、若い女の声で「皆さん、お元気ですか。おかわりありませんか?」「痩せ犬をみませんでしたか?」とわけのわからないことを質問してきます。

イタズラ電話かなといぶかしんだところで気分が悪くなり倒れ、電話口から「あっ」という女性の声が聞こえガチャと切られます。
その後は、阿鼻叫喚の地獄絵図。

ちなみに、後にこの電話の女性の声を、どこかで聞いたことがあると話します。
それは、緋紗子の母と一緒に教会にお手伝いにいっていたから聞いたことはあるでしょう。

 

そして、テーブルにおかれてた謎のメッセージ。

第10章では出版社の人が、満喜子が「この手紙を書いた人は闇の中にいる」と言っているのを聞いています。

それに当てはまるのは、目が見えない緋紗子。



 

「ユージニア」の感想

読み進めていくなかで、事件の真相についてわかってくるのですが、ぼんやりとちりばめられているのでちょっと大変。

「ああ、こういうことだったのか」と見えてきます。

また、本作はすべてが証言形式ではないので、ちょっと戸惑うことも。

「忘れられた祝祭」からの抜粋もあり、特に第3章は「緋紗子」の名前が「久代」と記述されており、「満喜子」ではなく「マキ」、「青澤家」ではなく「相澤家」、「丸窓さん」ではなく「船の窓の家」と変えられていたことからそう推測されます。

 

証拠や自白がない(それに近い形はあるけれども)ので、犯人は不明のまま終わる、なんとも消化不良な最期。

13章での緋紗子さんの独白とその表情はなんとも言えません。

緋紗子さんは静かな日々を願っていたのであっても、それのために家族を皆殺しにし、周囲の人を利用して自分は安全圏にいつづけるとは…なんとも恐ろしい。

というか、目が見えなくなったことが緋紗子さんに思想や性格に及ぼした影響は大きかったのかなと。

そんな緋紗子さんも、大人になって目が見えるようになり現実を知るように。
というか、もともと目が見えていた時も、そこまで自信家タイプではなかったようなので、元に戻ってしまった感がエピローグや14章の満喜子の話から見えてきます。

子供の頃は家族がいたからいいですが、無償で愛してくれていた家族を自分で捨ててしまったのですから、彼女を守ってくれる者はすでに一人もおらず。
因果応報なのかなぁと思わずにいられませんでした。



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