東京創元社の「案山子の村の殺人」は、作中の大学生コンビ推理作家のペンネーム楠谷佑で出版されているミステリー小説です。
秩父の山奥、大雪により村全体が閉じ込められるクローズド・サークルでの殺人。
田舎の暮らしを体験するべく旅行で来ていたコンビミステリー作家で、従兄弟同士の大学生男子・理久と真舟が、推理の基本であるフーダニット、そしてハウダニットも絡めつつ謎を解いていきます。
舞台となる村の描写はとても丁寧で、自分もそこにいるかのよう。
さらに案山子の魅力についても触れており、作中に出て案山子の村が実際にあるなら見てみたいと、ちょっとした観光気分が味わえました。

「案山子の村の殺人」のあらすじ
大学生の理久と真舟は、コンビの大学生推理作家。
ペンネームは楠谷佑。
生粋の都会っ子である執筆担当の理久が、小説の舞台となる田舎の描写にてこずっていたことから、春休みを利用して友人である秀島旅路の実家(宵待荘)がある宵待村に滞在(取材)することに。
宵待荘には二人以外に、大学院生の園出、外科医の中河原、人気のシンガーソングライターの丹波がそれぞれ一人旅で宿泊していました。
訪れた宵待村は、いたるところに案山子が置かれている案山子の里。
のどかな田園風景が広がる田舎でしたが、数日前から不穏なトラブルが起こっていました。
それは、毒の矢を射られた鳩が神社の石段に置かれ、とある家の案山子にも毒の矢が射られるなど。
どこかの不届きなハンターの仕業として警戒されていました。
宿についた二人は秀島の案内で宵待神社に向かうのですが、そこで案山子がなくなっているのに気が付きます。
なくなっていたのは、見晴らし台の下に位置する空き地に立っていた喪服を着た案山子。
昨年起こった転落事故の犠牲者を悼んでの案山子でした。
転落したのは宵待荘に宿泊していた桐部直。
桐部は村にある堂山酒造を見学した際に、堂山酒造の息子・純平に試飲を強く勧められ泥酔してしまいます。
神社を参拝する予定だったことから、純平が神社の見晴らし台まで連れていくもそのまま放置。
その後、転落して死亡してしまうのでした。
その夜、近くの温泉から帰る途中、二人は「宵待荘 この下」と書かれた看板に矢が射られているのに気が付きます。
不穏な空気の中迎えた翌朝、散歩に出かけた二人は、額を矢に射抜かれて死亡している堂山純平を発見。
現場は雪が降り積もり、純平と思わしき足跡しかない、いわゆる密室状態でした。
容疑者として真っ先に疑われたのが、犬猿の仲である宵待荘の従業員・竜門太一。
ですが、他にも純平と因縁がありそうな関係者が。
純平に結婚を迫られていた神社の娘・矢守初乃。
初乃に想いを寄せる秀島旅路。
転落死した桐部の元恋人である園出由加里。
さらに、宵待村に滞在しているシンガーソングライターの丹波も、近くの祠で殺害されてしまうのでした。
※ここから下はネタバレ(犯人名含む)です。
「案山子の村の殺人」の簡単ネタバレ
見晴らし台から転落した学生の事件からくる動機かと思いきや、こちらは読者をミスリードさせるための撒き餌的なものでした。
本当の動機は、丹波が過去に行ったツアーによるもの。
キャパオーバーで道路が渋滞し、救急車で運ばれた母親がその渋滞に巻き込まれ助からなかった…という竜門の恨みです。
犯人は宵待荘の従業員・竜門太一。
しかも、丹波を殺すために設置した罠だったのですが、純平が罠にかかって死亡してしまうという間違い殺人。
犬猿の仲だっただけに、妙にしっくりくる殺人になっていました。
容疑者として真っ先に疑われていましたし。
「案山子の村の殺人」の感想
とても丁寧に書かれた作品でした。
ただ、いかんせん長い。
殺人が起こるまで(説明が)長く、次の殺人が起こるまでも長い。
で、第二の殺人の後はすぐに解決編に入ります。
また、最初の殺人について主人公と従弟が推理を展開する際、ボウガンの仕掛けを作って殺したという推理が出てこなかったのが不思議でした。
雪で足跡もない崖下。
なかなかの体重がある男性。
数日前からボウガンを使ったトラブルが発生している。
…といったら、「なんか仕掛けつくったな」と真っ先に思いそうなところを、二人はぶっとんだ説をかかげていました。
発見されたボウガンにはガムテープの跡でもうほぼ確定。
医者によって否定されていましたが、医者じゃなくても否定するだろと。
ミステリーマニアの設定にしてはちょっと…。
やはりという仕掛けで殺害したわけですが、そこまで隠さなくてもよかったのではと思いました。
せめてボウガンを利用したなんらかの仕掛けを使った…ぐらいは出したほうが自然だったような。
また、殺害の動機はわかるんですが、ではなぜ、酔って転落死した被害者の話をわざわざ出したのかなと?
結果的に関係がなさすぎて、読書にミスリードさせるためにわざとらしく持ってきた話っぽく見えました。
正直、いらなかったんじゃないかなぁと。
最後に、順平が殺害現場となる空き地を訪れた理由は、「(死んでいるから)もはや知る術もない」としているのもちょっと残念でした。
初乃のために案山子を探しにきたかもしれない的なあいまいな表現で終わっていますが、ここははっきりとしてほしかった。
ちょっとずるいなぁと思いました。
これじゃ、間違って殺された順平も浮かばれない…かな。






