光の当たり方で猿の姿が浮かび上がる金の箔押し仕様と、インパクトのある装幀が目を引く京極夏彦の長編小説「猿」。
1冊で完結するノンシリーズ作品です。
雑誌「怪と幽」で連載され、本書では大幅な書き下ろしが加えられています。
ミステリー・ホラー作品に分類されることが多いですが、京極夏彦さん的には「猿」をホラー作品と明確に分類されていないのだとか。
ホラー小説的なモチーフを使った、「恐怖とは何か」につて語るテーマ作品?(このブログではホラーに分類)
最初から最後まで、対話をメインに理由や実体のない「恐怖」という感情そのものの本質に迫っています。

「猿」のあらすじ
コロナ禍の影響で体調を崩し引きこもり生活を続ける同居人・隆顕(たかあき)が、「猿がいる」とおびえだすのが始まり。
主人公の松永 祐美(まつなが ゆみ)は、すでに両親・祖父母が他界した独り身。
ある日、限界集落(祢山村/ねやまむら)に住む曾祖母・外田 のう(そとだ のう)が100歳で亡くなったという知らせを受けます。
外田 のうは100歳で亡くなるまで、岡山県の山奥にある地図に載っていない限界集落「祢山村」で一人暮らししており、親族とは没交渉の状態にありました。
その遺産を相続するかどうかを計るため、唯一の再従姉である芽衣(めい)と、曾祖母の遺産整理を担当する弁護士・山川(やまかわ)と、山川の事務所のパラリーガル(弁護士助手)の尾崎(おざき)とともに、岡山県山中の地図にない限界集落(祢山村)をに向かいます。
その道中、曾祖母について全く知らなかった祐美は、曾祖母が暮らす祢山村の特殊なシステムについて聞くのでした。
※ここから下はネタバレです。
「猿」の簡単ネタバレ
「猿」は、遺産相続のために祢山村を訪れるまでの話。
因習村や心霊スポット、オカルト的な要素がふんだんに盛り込まれた設定の中で、登場人物たちが「恐怖とは何か」「何が人を怖がらせるのか」「人はなぜ怪異を恐れるのか」について対話するのがメイン。
祢山村とは便宜上そう呼んでいるだけで、実際は曾祖母の一族が所有する私有地(山林)。
昔から「ネヤマ様」と呼ばれていますが、宗教的なものではなく、住民の全員が奉公人(従業員)であるから。
このシステムは曾祖母が生まれるずっと前から続いており、曾祖母はそのシステムを終わらせるために家族と分かれて単身村に戻ってきた(嫁に出る際に、後継者が誰もがいなくなってしまったら戻る約束をしていた)のですが、急激な時代の変化からも戻ることなく定着してしまいます。
そうしたことから家族とも疎遠になり、祐美と芽衣の両親も知らない状態にまでなっていたのでした。
村に住んでいる老人たちは、身寄りがなかったり身内が犯罪を起こしたなどワケありの人々。
曾祖母と契約を結び、奉公人(雇われ人)として自給自足の生活をさせてもらっていました。
曾祖母の遺産は祢山村の土地そのものなので、雇い主(地主)が亡くなったことで、住民たちの処遇も検討しなければいけなくなり、そこで祐美と芽衣が探し出されたのでした。
作中では、おどろおどろしい村の因習やオカルト的な呪いは一切なし。
道中にある心霊トンネルもただの噂と、論理的に否定されていきます。
ところが、祢山村は別。
曾祖母が住んでいた家は、ネヤマ家の者が室内に居る、もしくは一緒なら室内に入れるのだけれども、そうでないと誰もが怖くて入れない。
曾祖母が亡くってからは、明確な原因がないのにもかかわらず、ただただ怖いと何かに怯えていた状態でした。
だからこそ祐美と芽衣の到着を待ちわびていた村民。
ところが祐美たちが到着するなり嵐になり、うめき声が聞こえるという異様な光景が展開されます。
芽衣も含めて皆が怖がる中、祐美だけが「私は怖くない」と、村民の制止を振り切って曾祖母が住んでいた家に入っていきます。
その道すがら、祢山村は自分が継ぎ、引きこもり生活を続ける同居人・隆顕も一緒に暮らすのがいいだろうと思案。
さして恐怖心を感じることなくずんずん室内を進んでいくのですが、とある部屋で記憶が飛んでしまいます。
次に気がついたのは、真っ暗な屋敷の風景から一転して自分が住んでいるマンションの玄関前。
あの後どうやって帰ったのか全く記憶がないまま室内に入ると、同居人の姿はなし。
その代わり猿が!
その時、初めて恐怖を感じたとして物語は終わります。
「猿」の感想
物語の大部分が、移動中の車内や現地で理屈を積み重ねて議論を交わす対話。
ずー…っと会話が続くので、正直、一般的なミステリーと思って読み始めると気正直きつい。
しかも、すっきりと解決しないラスト。
オープンエンドであとがき(解説)もなし。
個人的には「どういうこと?」が正直な感想でした。
恐怖についての考察はなんとなくわかります。
「確かにそうだよね」と、意味もなく怖がり、噂話や雰囲気だけで出来上がってしまう部分もあることはあると。
ただ、ストーリー的には抽象的な結末で「わからない」でした。
若輩者の私には理解が厳しい本でした(笑)。






