方丈貴恵さんの「アミュレット・ホテル」は、犯罪者御用達の会員制ホテルを舞台にした全4編の連作短編本格ミステリーです。
舞台となるアミュレット・ホテルは、一般人が入れない犯罪者だけのホテル。
犯罪者たちが安全に滞在するための絶対的ルールが破られると、ホテル探偵が独自の捜査から禁忌を犯した犯人を見つけ出し、それ相応の対価を支払わせます。
登場人物は全員悪人。
限られた時間の中、ホテル探偵VS犯罪者のスリリングな頭脳戦が展開される、痛快・逆転・エンタメ小説です。

「アミュレット・ホテル」のあらすじ
「アミュレット・ホテル」は本館と別館とあり、前者は一般客、後者は会員である犯罪者のみが利用できるホテル。
別館は、ルームサービスで偽造パスポートや各種武器の調達ができ、何が起ころうとも警察が介入することがない、まさに裏社会の人間にとって便利なホテルとなっています。
しかし、ホテル宿泊客は絶対的な2つのルールを守らなければなりません。
1. ホテルに損害を与えない
2. ホテルの敷地内で傷害・殺人事件を起こさない
禁忌を犯した場合はホテル探偵による捜査を受け、犯人は犯した罪と同等の罰を受けます。
つまり“死”あるのみ。
そして、遺体も証拠もすべて自前の焼却炉で骨も残らず燃やされます。
主要ホテルスタッフは以下↓
諸岡(もろおか)…ホテルのオーナー
桐生(きりゅう)…元殺し屋からホテル探偵に
水田(みずた)…フロントスタッフ
「エピソード1:アミュレット・ホテル」のあらすじ
高層フロア11階の1101号室で男性の他殺死体が発見され、ホテル探偵の桐生が呼ばれます。
被害者は情報屋と自称していた強請屋の佐々木。
9階の0906号室に宿泊していたはずが、なぜか詐欺グループ「エリス」のボス・信濃が宿泊する部屋で絞殺死体として発見されました。
鍵がかかっていただけでなく、入り口は空のサービスワゴンで抑えられた密室状態。
しかも、室内には従業員・遠谷が気を失って倒れていました。
遠谷は、11階フロアの掃除をしている時に何者かに頭を殴られ、気が付いていたらここに倒れていたと証言。
その証拠に、頭には殴られた跡が。
さらに、橈骨神経麻痺のため絞殺は難しいとホテル医師からのお墨付き。
疑わしいところはあれど、犯行は無理だと断定されます。
そこで容疑者として挙がったのが、1102号室に宿泊する伊田(殺し屋)と1103号室の深川(窃盗グループ「プロメテウス」の幹部)。
気を失っている間、2回、意識がぼんやりと戻りかけた遠谷がその時に見た光景をヒントに、事件のトリックを解き明かします。
「エピソード0:クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」のあらすじ
このお話は桐生がホテル探偵になった経緯。
なので、エピソード0。
殺し屋「エレボス」として名を馳せていた桐生が、亡くなった道家の代わりに出席したクライム・オブ・ザ・イヤー(年間で最も優れた犯罪をなした者への授賞式)の檀上で、毒殺による殺人事件が発生。
殺害されたのは、複数の犯罪組織をまとめ、そのむちゃくちゃなやり口から多くの恨みを買っている明石。
その時に壇上に上がっていたのは、受賞者である覆面詐欺師ウーティス、国内最大級窃盗グループのリーダーである桂、プランナー(犯罪計画者)として絶大な影響力を持つ道家の代理人である桐生、そして明石の4名。
獅子のレリーフ付き角杯を回し飲みする儀式にて、桂・桐生と口にし、明石が口にして祝辞を述べている最中に倒れ、ホテル医師が駆け付けるも死亡。
現場の状況から桐生が殺害犯として疑われます。
しかも、桐生が持っていたパーティーバッグから毒物が入った薬瓶が。
この薬瓶は、授賞式が始まる前に桂が「これで明石を殺してほしい」と依頼した際に渡されたもの。
ただ、「殺害方法は自分で決める」といって桂に返却していました。
無実の殺害を疑われ、今にも殺されそうな極限の中、明石が倒れた際の動作とある人物の行動から真犯人とその狙いを言い当てるのでした。
「エピソード2:一見さんお断り」のあらすじ
語り手は桐生ではなく、スリの瀬戸博貴。
窃盗グループ「ケルベロス」の一員です。
幼馴染のアリアが大切にしていたキーホルダーが木庭に騙し取られたことから、奪い返すために木庭を付け狙っていた瀬戸。
スリで取り返そうとしていたところ、木庭は何者かに車でひかれ、怪我を負った状態で拉致されます。
木庭を乗せた車を追いかけると、行きついた先はアミュレット・ホテルの別館。
そして車から降りてきたのは、ケルベロスの親グループであり詐欺や窃盗を専門にする「エキドナ」の山吹でした。
山吹はエキドナの参謀であり陰の支配者。
また、個性的なファッションで知られており、瀬戸はファッション突然変異体と呼んでいました。
車は走り去り、目当てのキーホルダーは山吹が手にしていたことから、瀬戸は山吹に接近しようとします。
が、アミュレット・ホテル別館は会員制のため、会員資格のない瀬戸は門前払い。
そこでなんとか裏をかいて潜り込むのですが、厳重な警備は伊達ではなく、あえなく見つかってしまいます。
逃げる途中で山吹を見つけるも、山吹は高層階に。
そして瀬戸は駆け付けた従業員によって捕まってしまうのでした。
手足を拘束させられた瀬戸は、そこで一部のVIPしか入れない高層フロアで、窃盗グループ「エキドナ」のボスであり、山吹の傀儡になりつつあった土井が殺害されたことを聞かされます。
しかも、その殺害容疑がかかっているのが山吹で、高層フロアに逃げ今もまだ見つからない状態。
こつぜんと姿を消してしまっていました。
キーホルダーを是が非でも取り戻したい瀬戸は、アリアの名前を伏せて山吹を狙う理由を話し、桐生と共に消えた山吹を探し出します。
「エピソード3:タイタンの殺人」のあらすじ
アミュレット・ホテル別館の15階にある開かずの間、通称「タイタンの間」で、5年ぶりに出資者の会(タイタン会議)が開催されました。
参加できるのはホテルオーナーの諸岡と、出資者であり犯罪業界トップクラスの「ザ・セブン」と呼ばれるメンバーのみ。
「ザ・セブン」のメンバーは、武器密輸王の笠井、賭博王の相羽、詐欺王の陸奥、麻薬王の杜、闇の会計士の四ノ宮の5名。
犯罪計画王の道家と、強盗王の米本は死亡したことにより欠番になっています。
道家は病死ですが、米本は5年前のタイタン会議中に殺害され、犯人がいまだに捕まっていない状態。
事件以降、タイタンの間では貴金属類の持ち込みが不可になり、専用機械を使った厳しいチェックまで実施するようになりました。
唯一例外として許されているのが、諸岡の義肢と亡くなった米本の骨壺(医療器具の人工関節が入っている)です。
そして始まったタイタン会議。
その議題は、笠井が提案した「アミュレット・ホテルの廃業」でした。
途中に休憩をはさみ、再び会議を続行しようとしたとき、控室で笠井が殺害されているのが発見されます。
胸をナイフで一突きされていました。
容疑者として真っ先に挙げられたのが、直前まで控室で話していたオーナーの諸岡。
しかも、諸岡の義肢にはナイフが収納できることからも疑惑は濃厚に。
当の諸岡は否定するどころか、誰かをかばっているのかはっきりしない発言ばかりです。
犯人は諸岡しか考えられない状況でしたが、諸岡の無実を信じる桐生によって真犯人を導き出し、5年前の犯人も暴きます。
※ここから下はネタバレ(犯人名含む)です。
「アミュレット・ホテル」の簡単ネタバレ
「エピソード1:アミュレット・ホテル」のネタバレ
犯人は殺害現場である1101号室に宿泊していた信濃。
信濃は遠谷を殴って気絶させて1101号室に。
奪ったマスターキーで1103号室に入り、佐々木を呼び込み殺害。
そして、遠谷を1103号室に移動させてマスターキーと共に放置。
1103号室に深川が戻り遺体と遠谷を発見。
トラブルに巻き込まれたくなかったため、留守だった1102号室に遺体と遠谷を放置。
そして1102号室に戻った伊田が発見し、1101号室に遺体と遠谷を放置。
その際、自分と同じように移動させることがないように、サービスワゴンを使って扉を固定して密室に。
巡り巡って殺害犯の部屋に戻り、第一発見者となったのでした。
「エピソード0:クライム・オブ・ザ・イヤーの殺人」のネタバレ
犯人はホテル医師。
方々から命を狙われていた明石は、自分を死んだことにして別人として余生を送るため、ホテル医師に協力させて今回の事件を発案。
けれども、ホテル医師が裏切り明石を毒殺しました。
明石が口にした時点ではまだ角杯に毒が入っておらず、飲んだ後に明石自身が混入。
毒にあたったように倒れ、角杯に入っている毒が体にかからないように遠くに投げ、舌を噛み切って血を吐いで痙攣の真似事をするなどして演技。
ホテル医師によって病院に運ばれ死亡を宣言してもらうという計画でした。
ところが、ホテル医師が診察のふりして、手袋に塗った毒を明石の口の中に塗り毒殺。
その動機は、明石が別人として生きるために隠していた財産を奪うため。
そして、桐生のパーティーバッグに桂の毒が入っていたのは、うっかり会場に持ってきてしまった桂が、自分が疑われないように桐生のバッグにこっそりと入れたから。
ちなみに、桂は桐生がホテルのルールを破って明石を殺した(裏切られた)と思いお怒りでした。
この事件をきっかけに、桐生はホテル探偵として勤務するようになります。
「エピソード2:一見さんお断り」のネタバレ
犯人は、山吹のふりをしていた西尾。
実は、山吹と木庭は同一人物。
山吹の目立つファッションは、別人に変装するための隠れ蓑で、仕事をする際には目立たない姿をしていました。
その一つが木庭。
遺産の相続を邪魔するアリアの親族から依頼された木庭(山吹)は、遺産相続に必要なキーホルダーを奪ってアリアを脅迫していたのですが、これは西尾とは関係なし。
西尾は仲間に木庭(山吹)を車で襲撃し拉致させ、山吹を殺人犯に仕立てるため、山吹の格好をして土井を殺害。
そのままホテル外に逃げようとしたのだけれども、ホテルスタッフに化けていた瀬戸を本物のスタッフと勘違いし慌てて高層階に。
自分自身の名前でとっていた部屋で変装を解き、近くにあった火葬前の棺桶(見た目は椅子)に証拠となる品を入れて隠滅したのでした。
ちなみに、瀬戸に声をかけられなければそのまま外に出て、拉致していた本物の木庭(山吹)を事故か自殺に見せかけて殺害し、土井殺しの罪を擦り付ける予定でした。
西尾はキーホルダーを処分していなかったことから、瀬戸は無事に取り戻すことができたのでした。
「エピソード3:タイタンの殺人」のネタバレ
犯人は二人。
実行犯の四ノ宮。
そして相羽が首謀者(黒幕)で、さらに5年前の米本殺害事件の犯人でもあります。
その動機はホテルの乗っ取り。
廃業を唱える邪魔者の笠井を殺害し、オーナーである諸岡を罪人として処刑して現体制を壊そうとしたからでした。
笠井の殺害に使ったのは、四ノ宮が頭に付けていた一本軸の簪。
簪で刺したあと抜き取り、お菓子(飴)でできたダミーナイフを代わりに差し込み偽装。
そして、遺体確認のために皆が控室に入ったのを見計らって、相羽が骨壺の中に隠していたナイフを取り出し、隙を見て四ノ宮がダミーナイフと入れ替えたのでした。
しかも骨壺に入っていたナイフは、5年前の米本殺害事件で使われた凶器。
米本自身が護身用に持っていたナイフで、犯人は相羽。
こっそりと仕掛けた催眠ガスが発動した際に、相羽が米本からナイフを奪い殺害。
その際、道家が危機を瞬時に察知して息と止め、襲撃犯からナイフを奪って一撃を与えるものの、薬がまったく効いていなかったわけではないので、反撃を食らってしまいます。
とはいえ、急所を外していたため助かりますが、その怪我が引き金になり1年後には帰らぬ人に。
相羽はナイフを米本の遺体の中に隠し、当時のホテル医師を買収してナイフの存在を隠蔽。
ところが、遺体にもX線検査装置に掛けると聞いて焦ったホテル医師が、とっさに体内からナイフを取り出し骨壺の中に隠し、回収するためにも今回の殺害で使われたのでした。
さらに、道家が襲撃犯(相羽)に一撃を加えた際に傷つけたポーカーチップも一緒に骨壺の中に。
それが動かぬ証拠となったのでした。
「アミュレット・ホテル」の感想
犯罪者御用達で、出てくる登場人物が全員悪人。
さらにはホテル内ですべて完結するといった設定が、他にはない面白さ。
派手な展開ではないものの、犯罪が込み入っていて唸るようなロジック。
絶対に解けなさそうな事件を、トリックが少しずつ紐解かれ、神がったように解いていく過程は読んでいてスカッとしました。
無駄に謎を伸ばさない切れ味のよさがありました。
また、短編を読み進めていくと探偵の過去やホテルの始まりなどの背景も見えてきて愛着も持てる。
そして、悪人を相手にしているだけあって、ひとたび事件が起こった際のホテルスタッフの対応は笑えた。
どこの世界に、防弾チョッキを着用しサブマシンガンを手にして「しばらくお待ちください」と牽制するんだと。
ちょっとしたやり取りがコメディみたいで、実写化したら面白そう。
是非、豪華キャストでやってもらいたい。
それにしても…
こんだけ殺人事件が起こっていたら、犯罪者の楽園というには難しい気がする…と、突っ込まずにいられませんでした。






