日常生活出の会話にはそこまで困らなかった10代。
ですが!
確実にじわじわと聴力は低下しており、自然と口元をみて会話を聴く術を身につけるように。
いわゆる読唇術に似たもの。
相手との関係やその時のシチュエーションなどで、「こんなこと言っているんだろうな」的に読み取ります。
ただ、逆に言えば知らない人や初めての場所では厳しく…。
また、相手の顔が見えない電話を苦痛に感じるようになってきました。
そんな状況ではあるものの、仕事はホテルの接客業。
意外と性に合っていて、職場では頼りにされることも多かったです。
でも、次第に接客業がきつくなってきました。
言葉の聞き取りが悪くなってきたからです。
この頃から、私は初対面の人には必ず
「耳が悪いので…」
と一言、伝えておきます。
まぁ、伝えたからと言っても、ゆっくり&はっきり話してくれるのは最初だけです。
次の日には、普通の会話に。
これは仕方がないことなので、特に悪く思うことなし。
自分が反対の立場でもやはり同じようになると思うし、わかっていなくてもうなずいていると、次第に「意外と聞こえてるんじゃん」となるのも仕方がない。
だったら聞こえるふりをしないで、聞けばいいじゃないのかと思う人もいると思うけれども、何度も聞いていると、次第に面倒になって話さなくなる人がほとんど。
それだったら、部分的に聞こえなくても聞こえているふりをしていた方がいいのです。
最初の頃、「耳が悪いんだ…わかった、聞こえなかったら聞き返して」という優しい言葉を信じて聞き返していたら、そのうち嫌な顔をされるようになりました。
これは、この人が悪いんじゃない。
しかたがない事。
私でも、逆の立場だったら面倒に思うでしょう。
何度も繰り返して言わなければいけない人よりも、普通に話せる人と話します。
10代の頃より耳の聞こえが悪くなってきたと実感するようなことが増え、「そろそろ潮時かな…」と思うようになったのが25の時。
耳が聞こえなくなった時の事を覚悟し、その状態でもできる仕事を探そうかと思っていた頃に、あるパートのおばちゃんと会います。
いつもと同じく耳が悪い事を話すと、なんと知り合いに難聴…しかも、当時の私よりももっと状況が悪い人の話を。
その方は、手術して耳が聞こえるようになったというのです。
手術後、聞こえるようになった感想は、「世の中はうるさい」。
ものすごく羨まし感想です!
おばちゃんは親切にも、その方が通った耳鼻科を教えてくれました。
当時住んでいた家からは、電車で40分ほどの場所にありましたが、さっそく受診。
そこは地元の小さな耳鼻科という感じの病院で、たくさんの患者さんがいたのを覚えています。
これまでの耳鼻科の先生とはまったく違い、ものすごく親身になって丁寧に診てくださいました。
そして、
「ここでは無理だから、大学病院で検査を受けてください」
と、慶應義塾大学病院を紹介してくださったのです!!
初めての事にびっくり。
ちなみに、おばちゃんから聞いたお知り合いの方も、こちらの耳鼻科から紹介状をもらい大学病院で手術したというのですから、
私の中でかすかな希望が芽生えました。
この時の気持ちは、「聞こえるようになるかもしれない!!」という喜び。
紹介状が、聞こえるための特別な切符に見えたほどです。
かくして私は、慶應義塾大学病院に行くことになったのでした。